ヒトコワ×ミステリー小説 和田正雪著「特定しないでください 」を紹介・レビュー※微ネタバレ含む|深淵の記録:3
みなさま、ようこそ深淵境界線へ。
案内人のフチと申します。
今回お見せする深淵は和田正雪著のミステリー小説、「特定しないでください」です。
昨今のホラージャンルの一端を担うヒトコワ(人の怖い話の略、人間の狂気、悪意、嫉妬など)が前面に出された作品となっており、心霊系とはまた一線を画した怖さがある作品となっています。
- 「特定しないでください」とはどのような小説か
- 著者:和田正雪(わだしょうせつ)氏のプロフィール、他作品は?
- 「特定しないでください」と共におすすめできる作品
それではともに深淵を覗いていきましょう。
「特定しないでください」とは
「特定しないでください」のあらすじ
本業の執筆だけでは生活が苦しい、新人ライターの主人公「私」のもとに編集者を通じて「過去に流血事件を起こしたとあるアイドルの行方を探してほしい」という奇妙な調査依頼が舞い込んでくる。
「メランコリックフルール」通称メラフルはメンバーの中に人殺しがいるなどSNSで噂が流れたり、活動期間中から怪しい出来事が発生していることも界隈では知られているグループだった。
「私」は次回作のネタ集めも兼ねて、過去の関係者から、ファン、元メンバーまで取材と調査を重ねていくことになる。
SNSを中心に広がる彼女たちの過去と噂の真相を解き明かす時、地下アイドルの内輪揉めというにはふさわしくない結果、魅力的な人間は時に人を狂わせることなど、人間の根底の恐ろしさと対峙する…。
事件の真相に迫る主人公の記録が展開されていくモキュメンタリ―ミステリー作品となっています。
「特定しないでください」の感想・見どころ
様々な人が根底に持つ悪意が渦巻くストーリー
地下アイドルの起こしたステージ上での流血事件の原因、真相を追う過程で登場する人物たちのクセが強く、それでいてそれぞれが持つ暗い部分や悪意がストーリーを非常に引き立てています。
それゆえに、主人公と同じように登場人物に嫌悪感を抱くと同時に謎に強く引き込まれるという大きな要因となっており、誰がどのように話に絡んでくるかを考えずにはいられない魅力があります。
暴力的な魅力が人間を狂わしてしまうこともある、「美」への恐怖
少々、物語の核心に触れることになりますが、人は自分のキャパシティを超えるほどの魅力に出会うことにより狂わされてしまうことがある、ということをこの作品を見て感じました。
そして、それを手放してまで生きたいと願う気持ちはその本人にしか理解できないのでしょう。
アイドルと暴力事件というミスマッチな構造が「推しの子」に通ずる凄みを感じる
この作品を読んだ時にふと、大ヒット漫画・アニメ作品である「推しの子」の存在が頭をよぎりました。
この作品も同様に、人は暴力的なまでの魅力を目の前にした時に狂気を起こすというテーマを持っており、どちらもフィクションであることを念頭に置いてもそのようなことが現実としてあることなのかもしれないと考えざるを得ません。
著者:和田正雪のプロフィール
名前:和田正雪(わだしょうせつ)
経歴:1987年生まれ 岡山県出身
早稲田大学教育学部国語国文学科卒
web小説投稿サイト「カクヨム」でオカルト作品を中心に執筆している。
2023年に「夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない」でデビューを果たした。
2025年には背筋氏の「近畿地方のある場所について」の映画特番である「近畿地方のある場所について について(日テレ)」の構成を担当し、自身の作品にも背筋氏の推薦文が掲載されるなど、以降は構成作家という側面も持ち合わせた小説家としても精力的に活動を続けている。
作品の特徴は、「綺麗結末だけでは終わらせない」こと。現代社会・SNS社会と人の恐ろしさを併せ持った内容が魅力だ。
著者:和田正雪の別作品
「夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない」/KADOKAWA(2023年)
カクヨム投稿から書籍化デビューし、「青春×恋愛×ホラー」というジャンルを確立した作品となっています。
「嘘つきは同じ顔をしている」/KADOKAWA(2025年)
こちらもカクヨム投稿から書籍化されたホラー作品。
不思議な体験をした4名それぞれの時系列の異なる話が書かれているが、ただの個別の話ではなく徐々に関連性が見えてくる不思議な作品となっています。
「■■謹んでお譲りします。」/講談社(2025年)
和田正雪をはじめとした5人のホラー作家が一同に介して、「霊感を他人に譲る」をテーマとしたアンソロジー作品。
ただの短編集にとどまらない、読者をも巻き込んだ仕掛けもあり、それもふくめて是非楽しんでいただきたい作品となっています。
「特定しないでください 」と共におすすめの作品はこちら
著:雨穴 「変な家」/飛鳥新社(2021年)
とある一戸建ての間取り図の違和感から始まるモキュメンタリーミステリー作品。
2020年10月12日にウェブメディアのオモコロに投稿された後、YouTubeで本人出演の動画を公開するなどその独特の切り口や手法で大きな話題となり書籍、漫画など多くのメディアミックス展開し、謎解き要素と不気味な雰囲気で大ヒットし、2024年に映画化され多くの層に注目を集めた現代モキュメンタリ―作品の代表作です。
著:小野不由美「残穢」/新潮社(2012年)
モキュメンタリ―ホラー小説の代表作とも言える、小野不由美氏の著書。
上述の通り著者の背筋氏も影響を受けた作品となっており、土地というものをテーマにした怪異について調べていくモキュメンタリ―ホラー作品です。
モキュメンタリ―に限らず、本当に怖いホラー小説としてしばしば最高傑作と称されることもある作品です。
この作品の真の恐怖は、読み終えた後まで続く他人事ではなかったという絶望感です。
著:上條一輝「深淵のテレパス」/角川ホラー文庫(2024年)
「このホラーがすごい!2025年」にて1位を獲得した、ミステリー
超常現象に相対し、それを調査する芦屋
それでは、本日の深淵の案内はここまで。
無事に深淵の境界線から現実に戻って来れましたね。
ただし、深淵を覗くときまた、深淵もこちらを覗いているのです。
また、この場所でお待ちしております…。




