現代モキュメンタリーホラー小説の始祖 小野不由美著「残穢」を紹介・レビュー※微ネタバレ含む|深淵の記録:10
みなさま、ようこそ深淵境界線へ。
案内人のフチと申します。
今回お見せする深淵はモキュメンタリ―ホラー小説「残穢」です。
本作に影響を受けた、好きな小説であると公言するホラー作家が多いことからも、その怖さと没入感は裏付けされています。
- 「残穢」とはどのような小説か
- この小説「残穢」がオススメな人
- 著者:小野不由美(おのふゆみ)氏のプロフィール、他作品にはなにがあるか
- 「残穢」と併せておすすめできる作品
それではともに深淵を覗いていきましょう。
「残穢」とは
- タイトル:「残穢」
- 著者:小野不由美
- 発売日:単行本/2012年7月20日、文庫本/2015年7月29日
- 出版社:新潮社
- サイズ:単行本/文庫本
- ページ数:単行本/335ページ、文庫本/368ページ
- 価格:単行本/定価 1,760円(税込み)、文庫本/定価 770円(税込み)
- 受賞歴:2013年 第26回山本周五郎賞
10年以上前(2026年現在から)に刊行された作品ではありますが、現在のモキュメンタリーをはじめとしたホラーブームの始祖として君臨する名作です。
何といっても本作は、現在のモキュメンタリ―ホラー作品の傑作のひとつともいえる「近畿地方のある場所について」の著者である背筋氏が影響を受けたことを公言しています。
また、影響の公言こそされていませんが雨穴氏の代表作である「変な家」も土地にまつわる謎を追うモキュメンタリ―・ミステリーホラー作品ということから通ずる部分も感じられます。
さらに、第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞を「虚魚」で受賞した新名智氏も小野不由美氏の作品の影響を公言し、澤村伊智氏著の「ぼぎわんが、来る」でも日常の浸食といったテーマに共通点があるなどモキュメンタリ―ホラー以外のジャンルでも多くのフォロワーがいる作品となっています。
「残穢」のあらすじ
小説家である主人公の「私」のもとに読者の一人である「久保さん
」から手紙が届く。
内容は引っ越して間もないマンションの和室から畳をこするような音がするという。
過去にも別の読者から似た内容の話が届いていたことを思い出した「私」はどちらも同じ岡谷マンション(仮)に住んでいるという共通点を 発見し、「久保さん」とともに調査に乗り出すこととなる。
調査を進めていくに連れて岡谷マンションが建つ土地とその周辺にかつて建っていた「岡谷団地」と「小井戸家」に曰くがあるのではないかということをつかんだ2人、調査は土地の過去を遡ることに発展していく…。
物語のあらすじはいわゆるジャパニーズホラーや怪談におけるお決まりのような、不審な物音という導入から始まります。
この段階では「この話はいわゆる久保さんの住んでいる部屋が事故物件だったのかな?」という想像でとどまるのが普通かと思います。
しかし本作は読み進めていくと、様々な点と点が、現在から過去までが線で繋がり、ただの事故物件の部屋に住んでしまったという域を超えた話であるとわかります。
「残穢」はどんな人にオススメできるか
この作品はこのような人に強くおすすめしたい作品です。
- 「リング」や「呪怨」といった2000年代初頭のジャパニーズホラー作品がお好きな人
- 読んだ後の自身の日常にも恐怖を感じたい人
- 昨今のモキュメンタリ―ホラーブームの中刊行された作品を読んだ人
「残穢」は刊行こそ2012年ですが、物語は2001年から始まるので「リング」や「呪怨」といったホラー映画の時代軸と近く親和性が高い作品となっています。
同時に、作品を通じて自身の日常にも物語の中にある恐怖、怪異が潜んでいるのかもという体験がしたい方には非常に強くオススメしたい作品です。
また、昨今の空前のホラーブーム、とりわけモキュメンタリ―ホラー作品を読まれた方にとっていわゆる始祖の作品にあたる部分もありますので、遡ることで得られる怖さも是非「残穢」から感じ取っていただきたいです。
「残穢」の感想・見どころ
※以下、ややネタバレを含みます。
主人公の実体験の形式を用いた本格ドキュメンタリー調のホラーである
作者の小野不由美氏は、ドキュメンタリーホラー作品である「ほんとにあった!呪いのビデオシリーズ」から着想を得たと語っており、現在ホラーブームを牽引している実話調、ドキュメンタリー調の要素をここまで本格的に取り入れたものとしては最初の作品だと思われます。
語り手の「私」は名前こそ出てこないものの、著者小野不由美氏のことを表現しているとすれば数々の要素に合点がいく構造となっています。
ただし、自
そして、あとがきにあたる解説においても、「この作品がフィクションである」とは明言されておりません。
この作品を事実ととらえるかどうかも読者にゆだねられていることで、その恐怖は受け手の主観によって大きく異なるのもこの形式の魅力となっています。
心霊を前面に押し出さない、土地の過去を探ることでじわじわと迫る恐怖と緻密な謎
本作はジャパニーズホラーの典型的な導入を持ちながら、心霊の実態はほとんど表現されることはありません。
ただ、確実にその土地で「何か」があった、「誰か」が命を落としたという事実が、そのマンションに住む者、関わったものをひたすらに巻き込んでいくという伝播と繋がりを追っていくこの過程こそが恐怖を生み出しています。
文章表現だからこそできる、心霊描写よりも心理的な不安感、付きまとう不穏さがこの作品の持つ怖さです。
読み手をも巻き込んだ「穢れ」の連鎖の恐怖
そして、この作品の最も恐ろしいところは「読者」自身にも「穢れ」が伝播する対象であることを投げかけている、というところです。
モキュメンタリ―ホラーはあくまで事実のように伝える、ということを目的とした手法であるのですが、本作はさらにそこに読者のいる世界も含めてこの物語は完成するという要素があります。
それにより事実であろうがフィクションであろうが、これを読んだ人々に残り続ける後味の悪さ、恐怖を植え付けることに成功しています。
この作品が、「絶対に家に置いておきたくない本」と称された所以はそこに詰まっています。
著者:小野不由美のプロフィール
- 名前:小野不由美(おのふゆみ)
- 経歴:1960年12月24日生 大分県中津市 京都市在住
夫は同じくホラー、ミステリー小説家の綾辻行人。
父親は設計事務所を経営していたことから図面や建物に興味を示す傍らで、怪奇伝説や伝承に傾倒する。
大谷大学文学部仏教学科に入学した後、京都大学推理小説研究会に所属し小説の執筆を開始する。夫となる綾辻行人ともそこで出会う。
大学院に進んだ後に自主退学をするも大学時代に書いた小説を評価されたことをきっかけに小説家となり、1988年に『バースデイ・イブは眠れない』にて講談社よりデビューを果たす。
以降、『悪霊がいっぱい!?』『十二国記シリーズ』『屍鬼』など、ファンタジー作品、SF作品、ミステリーホラー作品など多岐にわたるジャンルでベストセラーを連発しメディアミックス化され、人気作家の仲間入りを果たす。
2012年刊行の『残穢』が2016年には初の実写映画となるなど、現在まで第一線で活躍する。
長い活動期間の間でホラー、SF、ファンタジーという数多くのジャンルの作品で人気作を執筆されており、様々なチャンネルや表現方法を駆使した作風が目を引く作家です。
著者:小野不由美の別作品
「鬼談百景」/角川(2012年)
「残穢」と同時に刊行、発売がされた100物語形式のホラー短編集であり、「残穢」の前史となる小説作品です。
全99話を収録しており、最後の100話にあたる「残穢」へとつながる構成となっており、残穢と共に読むことで恐怖が膨れ上がる作品となっています。
「屍鬼」/新潮社(1998年)
漫画、アニメ化といったメディアミックスもされた小野不由美氏のサスペンスホラー小説です。
単行本で上下巻、文庫本で5巻で総1000ページを超えるボリュームであり、単なるホラー作品ではなく、外部と隔離された因習じみた風習の残る村を舞台にオカルト要素、スプ
「十二国記シリーズ」/講談社、新潮社[新装版](1992年~)
ホラー小説ではありませんが、小野不由美氏の代表作であるファンタジ
架空の中華風の国々を舞台にした歴史ファンタジー物語で、「屍鬼」と同様に漫画化やアニメ化といっ
「残穢」と併せておすすめしたい作品はこちら
著:背筋「近畿地方のある場所について」/KADOKAWA(2023年)
ホラー小説家の背筋氏のデビュー作にして代表作であるモキュメンタリ―ホラー作品です。
2024年版「このホラーがすごい!」国内編1位を獲得していることからもわかるように非常に評価が高く、2020年代のモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)ホラーの傑作のひとつであると言えます。
著者の背筋氏は「残穢」からの影響を受けていると公言することから、モキュメンタリ―ホラーとして、土地の曰くを題材とした作品として、共通点を意識しながら読むのも面白いでしょう。
是非とも、巧妙に張り巡らされた仕掛けと衝撃の真相を目の当たりにして、恐怖を感じていただきたいです。
著:雨穴 「変な家」/飛鳥新社(2021年)
とある一戸建ての間取り図の違和感から始まるモキュメンタリーミステリー作品。
2020年10月12日にウェブメディアのオモコロに投稿された後、YouTubeで本人出演の動画を公開するなどその独特の切り口や手法で大きな話題となり書籍、漫画など多くのメディアミックス展開し、謎解き要素と不気味な雰囲気で大ヒットし、2024年に映画化され多くの層に注目を集めた現代モキュメンタリ―作品の代表作です。
「残穢」同様に、土地とそこに建つ家に何かしらの曰くを調べ進めることで浮かび上がる恐怖をお楽しみください。
著:梨「かわいそ笑」/イースト・プレス(2022年)
新進気鋭のホラー作家、梨氏の衝撃のデビュー作。
現代のネット怪談を紹介するような形でありながら、映画「着信アリ」や「リング」に代表されるジャパニーズホラー、伝播系ホラーの要素も多分に含み、読者に語り掛けるかのように展開されていくストーリーは気づいたらその世界の中に入り込んでしまう独特の雰囲気があります。
現代的アプローチや要素が強いですが、「残穢」から始まる恐怖の伝播、モキュメンタリーホラーの形式は必見です。
それでは、本日の深淵の案内はここまで。
無事に深淵の境界線から現実に戻って来れましたね。
ただし、深淵を覗くときまた、深淵もこちらを覗いているのです。
また、この場所でお待ちしております…。




